ネクスト

『おかえりモネ』でミステリアスに好演した伊東蒼

2021年に放送されたNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の第21週「胸に秘めた思い」で、ヒロインが宮城県・気仙沼で出会う謎の女の子・石井あかりを演じて視聴者を惹き付ける存在感を見せたのが、16歳の新鋭女優・伊東蒼だ。

彼女が演じたあかりは、東日本大震災が起きて生まれ育った気仙沼を6年間離れていたが両親の意向で戻ってきた。実は鈴木京香が演じたヒロインの母親が小学校の教員をしていた頃の教え子だったことが、のちに明らかになる。

後半のストーリー展開の中で、ひときわ印象的な存在となっていた。清原果耶が演じたヒロイン・百音になぜ気象予報士になったかという疑問をぶつけるという重要なシーンは、予告編でも使われたので『おかえりモネ』を見ていた人なら記憶に残っているはずだ。

6歳でテレビドラマ初出演

演技キャリアは豊富。6歳だった2011年に、さだまさしの小説を岡田将生の主演で映画化した『アントキノイノチ』の劇場公開に先がけてオンエアされた、原田泰造(ネプチューン)の主演によるドラマスペシャル『アントキノイノチ〜プロローグ〜 天国への引越し屋』(TBS系)でデビュー。このドラマで彼女は、母親を阪神大震災で亡くし若い父親と暮らしている少女・しょう子を演じた。

2012年のNHK大河ドラマ『平清盛』に清盛の娘・盛子役で出演。同年にはKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔が連ドラ初単独主演した、警察学校を舞台としたコメディドラマ『ビギナーズ!』(TBS系)の第4話にもひより役で出演。2013年に放送された亀梨和也主演の連ドラ『東京バンドワゴン~下町大家族物語~』(日テレ系)の第4話ではミムラ(現・美村里江)が演じた堀田藍子の幼少期を演じた。

そのほか、ドラマでは『牙狼〈GARO〉-魔戒ノ花-』(テレ東系・2014年)、『ラギッド!』(NHK BSプレミアム・2015年)、昼ドラ『花嫁のれん』(東海/フジ系・2015年)、ABC創立65周年スペシャルドラマ『氷の轍』(ABC/テレ朝系・2016年)にも出演。映画では2013年に公開された『貞子3D2』に瀧本美織が演じた主人公の幼少期役で出演した。

2017年に高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞

伊東蒼が次世代演技派女優として一躍脚光を浴びるきっかけとなったのは、10歳で出演した2016年公開の映画『湯を沸かすほどの熱い愛』だ。

この映画は宮沢りえと杉咲花が演じた母娘が注目を集めた(日本アカデミー賞で宮沢が最優秀主演女優賞、杉咲が最優秀助演女優賞と新人俳優賞を受賞)が、伊東は主人公と結婚する男性(オダギリジョー)が愛人から押し付けられた連れ子・鮎子を鮮やかに好演。過去には田畑智子・柴咲コウ・宮﨑あおい・安藤サクラ・篠原ゆき子らが受賞して、主演級女優への登竜門として知られる高崎映画祭最優秀新人女優賞(2017年3月)に輝いた。

2017年に『島々清しゃ』で映画初主演

2017年には主演映画『島々清しゃ』が公開。沖縄民謡をモチーフにしたこの映画で彼女は、コンサートのために島に来たヴァイオリニストの女性と出会う主人公の少女を演じ、ここでも演技が高く評価されて、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。

12歳での受賞は、2014年に9歳で受賞した濱田ここね(映画『おしん』)に次ぐ同賞史上2番目の若さだったことが話題になった。授賞式で彼女は「伊東蒼という名前を聞いたら、この顔を思い出してもらえるように頑張ります」と語った。

2017年公開の映画『望郷』には貫地谷しほりが演じた主人公の幼少期役で出演したほか、2018年には映画『累-かさね-』で芳根京子の幼少期役を演じた。

共演俳優も伊東蒼の演技を絶賛

伊東蒼の才能を、共演者も絶賛する。2021年公開の映画『空白』で父親役を演じた古田新太は初日舞台挨拶で伊東の印象について「すごいなと思いましたよ。最初に罵倒するシーンだったんですけど、びくつき方がリアルだったので。この子は、絶対に売れるだろうなと」(フジテレビュー・2021年9月23日配信)と絶賛した。

2021年は朝ドラ『おかえりモネ』に加えて、『ひきこもり先生』(NHK)、『それでも愛を誓いますか?』(ABC/テレ朝系)、『群青領域』(NHK)に出演して多くの人に存在が知られるようになった。『群青領域』では、工場で働きながら夜間高校に通っている声を失った高校生を演じた。

年が開けて今年1月に公開された映画『さがす』では、懸賞金がかかっている連続殺人犯を探すために姿を消した父親を追う中学生の娘・楓を演じた。

楓の父を演じた佐藤二朗も伊東蒼の演技センスを高く評価して、テアトル新宿で行われた公開初日の舞台挨拶の場で「この年齢でこの感性はモンスター! 1日目の撮影で、すごいのがいるぞ!と思わされた」(映画ナタリー・2022年1月22日配信)と語っている。この映画は第26回釜山国際映画祭 ニューカレンツ(コンペティション)部門に正式出品された。

6月公開の映画『恋は光』に出演

今年は『ウルトラジャンプ』連載漫画を実写映画化して神尾楓珠が主演、西野七瀬がヒロインを演じる6月17日公開の映画『恋は光』に出演する。

伊東蒼は、映画やテレビドラマに登場するとその場の空気が一変して、見ている人を釘付けにする力を持っている女優だ。そこに彼女が立っているだけで物語を感じさせる女優であり、今後はCM起用も増えるに違いない。

 

文/高倉文紀

 

伊東蒼(いとう・あおい)


2005年9月16日生まれ
大阪府出身
ユマニテ所属
公式サイト http://www.humanite.co.jp/actor.html?id=43