2016年に乃木坂46を卒業し、18年の初主演映画『パンとバスと2度目のハツコイ』でTAMA映画賞最終秀新進女優賞を受賞。以降、映画『愛がなんだ』『空母いぶき』などに出演し、『まんぷく』『まだ結婚できない男』などのドラマでも活躍してきた深川麻衣。新たな主演映画は、『おもいで写眞』(公開中/熊澤尚人監督)。東京で夢に挫折し、故郷・富山で遺影を撮影するカメラマンになる主人公・音更結子を演じている。
所属事務所の25周年企画に主演
——『おもいで写眞』は、所属事務所「テンカラット」の設立25周年企画。主演の話を聞いたときは、どう思いましたか?
久しぶりに主演を務めさせていただく、プラス、事務所の25周年作品ということで、うれしさと重みを感じました。しかも、高良(健吾)さん、香里奈さん、(井浦)新さんという事務所の先輩方や、吉行(和子)さん、古谷(一行)さんというベテランの先輩方ともお芝居ができるということで、そんな機会はなかなかないと思って、うれしかったです。
——熊澤監督が長年温めてきたオリジナル脚本。読まれたときの感想は?
遺影写真をテーマにした映画って、今までありそうでなかったなと。実際、遺影に使える写真がなくて、ピンボケの写真を引き延ばして使うしかない人もいると思うので、何かメッセージを投げかけられる作品になったらいいなと思いました。
——ご自身の音更結子という役については、どう感じましたか。
ずっと怒ってるなって(笑)。感情をオブラートに包むことがなくて、喜怒哀楽がそのまま出る。良く言えば裏表がない。私もそうですけど、私の周りでも結子ほどストレートな人はいないので、ちょっと羨ましいなとも思いました。
——共感できる部分はありましたか?
結子はメイクアップアーティストになりたいと田舎から上京して、私も芸能のお仕事を目指して上京したので、境遇は似ていました。あと、私も「頑固だね」って言われることがときどきあるので、そこは似てるのかなと(笑)。
——結子はメイクの仕事をクビになって、故郷の富山に帰ります。深川さんは芸能のお仕事を続けられてますね。
私は今年30歳になるんですけど、20歳で芸能の仕事を始めたので、ちょうど10年なんです。ありがたいことに続けさせていただいてはいるんですけど、壁にぶつかってどうしようもなくなったり、つらかったり、苦しかったりしたときもあったので、結子の気持ちは分かります。そして結子も30歳前という設定なので、年齢に対する焦りもすごく理解できました。
高良健吾、井浦新、吉行和子…先輩俳優に学んだこと
——熊澤監督からの演出で、印象的だったのは?
特にこだわられていたのが、怒りの表現。結子は前半、笑顔を見せず、ずっと怒ってるんです。それが、私が思っていた以上の怒りを監督は想定されていたみたいで、その差を埋めるのが大変でした。でも監督は私が今まで見せたことのない表情を引き出したいと、何度もテイクを重ねながら、見守ってくださいました。
——確かに、見たことのない深川さんを感じました。特に、怒ってプンプンしている表情は、マンガに出てきそうで微笑ましいなと(笑)。
(笑)。笑顔が出せないのは、人間的に辛かったですね。カメラを構えて写真を撮っているとき、相手が笑ってくれると、無意識に微笑んじゃうんです。だけど監督は、ちょっとでも笑顔を見せてほしくないと。「今、笑顔が出ちゃったから、もう1回」と言われたりもしました。
——幼なじみの一郎との関係も微笑ましかったです。一郎役の高良健吾さんとの共演はいかがでしたか?
私だけでなく、スタッフさんに対しても気遣いができる、本当に素晴らしい先輩です。現場での居方や仕事に向き合う姿勢を、背中で見せてくださったような気がします。私が切羽詰まっているときに、高良さんがポロッと言われた言葉に救われたこともたくさんありました。
——その言葉とは?
えー!? 内緒です(笑)。
——残念(笑)。井浦新さんは?
新さんとは居酒屋のシーンで、1日だけだったんですよ。そのシーンが終わった後に中打ち上げがあって、そこで新さんに言われた言葉が響きました。
——その言葉は?
私は監督の演出に応えたいから、言われたことに対して、「はい、分かりました」と答えがちなんです。でもそんな私を見ていて、感じるところがあったみたいで。「自分もそうだったから、監督の演出に『はい』って言いたい気持ちは分かる。でも、ちょっとでも自分の中で納得がいかないところがあったら、そこからさらに話し合わないとダメだよ」と声を掛けてくださって。見透かされてるなと思いましたし、本当にその通りだなと思いました。
いくつになっても仕事を楽しめる人に
——吉行和子さんとの共演はいかがでしたか?
吉行さんは、ホッとするほど柔らかい雰囲気をお持ちの方で。でも本番になるとスイッチが入って、空気が変わる。その瞬間を間近で感じることができて、「うわぁ!」と(笑)。実は後半の吉行さんとの共演シーンで、監督に「ここで涙がほしい」と言われたことがあって。泣けるか不安だったんですけど、本番で吉行さんのセリフを聞いたときに、自然に涙が出たんです。吉行さんの声って、すっと心に染みこんで入ってくるんですよね。すごく思い出深いシーンになりました。
——将来、こんな人になりたいとは?
いやもう、そんなこと言えないほど遠いところにいらっしゃるので(笑)。私はまだ自分のことでいっぱいいっぱい。でも吉行さんや古谷さんには余裕みたいなものが感じられて、本当にお芝居を楽しんでいらっしゃって。経験を重ねても現場を楽しむことができる人は素敵だし、自分もそういう歳の重ね方、仕事の重ね方をしたいなって、最近すごく思うようになりました。
——完成した『おもいで写眞』は、深川さんにとってどんな作品になりましたか。
富山での撮影が本当に濃くて、20日間、朝から晩までこの映画のことを考えられたんです。たぶん東京で撮影していたら、そうはいかなかったと思います。また、20代最後の映画作品で、先輩方と連日ご一緒できた作品でもあるので、1つの私の原点というか。5年10年経っても、この映画を見返すと、そのときの気持ちに戻れるような、自分にとって特別な作品になったと思います。(後篇に続く)
深川麻衣(ふかがわ・まい)
誕生日 1991年3月29日
出身地 静岡県
所属事務所 テンカラット
公式サイト https://fukagawamai.com
公式インスタグラム https://www.instagram.com/fukagawamai.official/
映画『おもいで写眞』
全国公開中
監督:熊澤尚人
出演・深川麻衣、高良健吾、香里奈、井浦新、古谷一行、吉行和子
脚本・熊澤尚人、まなべゆきこ
配給:イオンエンターテイメント
(C)「おもいで写眞」製作委員会