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TVで顔出しのないままTVスター級の人気!特に女性では幅広い支持のあるAdo

『臼井孝のヒットは複眼で探せ!タレントパワーランキング編』

話題のアーティストのセールス状況や新作の内容、タレントパワーランキングを見ながら、そのヒット傾向を読み解く『臼井孝のヒットは複眼で探せ!タレントパワーランキング編』。第110回は、女性ボーカリストAdoに注目。

「うっせえわ」が、一般投稿後のメディア戦略が奏功しストリーミング1億超えに

Adoは2002年10月24日東京生まれの女性の歌い手。これまでメディアでは一切顔出しせず本名も公開していない。2017年から動画サイトに「歌ってみた」動画を投稿するようになり、他のボカロPとの交流から徐々に人気を高めていき、2020年秋には自身のYouTubeチャンネルで既に約500万回の総再生数となっていた。

そして、自身の18歳の誕生日前日となる2020年10月23日に、デジタルシングル「うっせえわ」でメジャーデビュー。その歌詞のインパクトの強さと、怒りを込めたような情動的な歌声、そしてそれを盛り立てるようなアニメーションが話題となり、まずはミュージックビデオの再生回数が急上昇し始めた。その後、UGC(User Generated Content=「ユーザー生成コンテンツ」)の多さを示すビルボードジャパンの指標“Top User Generated Songs”でも上位を独走、つまり一般ユーザーが「うっせえわ」をカバーしたり、BGMにして変顔をしたりといった投稿も急増したのだ。

Ado「うっせえわ」のチャート推移(ビルボードジャパン調べ)

大半のインディーズアーティストならそのスマッシュヒットで終わりがちなところを、プロモーションによって更にスケールアップするのがメジャーレコード会社ならではの強み。さらに、テレビの情報番組で注目アーティストとして取り上げられ、また中高年向けの新聞やサラリーマン系メディアでは「ギザギザハートの子守唄」(チェッカーズ、1983年発売)との類似から考察するような記事も出始め、やがてストリーミングやカラオケチャートも上昇し、2021年4月にはついにストリーミング再生1億回を突破。

Adoのヒット曲一覧(2022年6月末までに日本レコード協会でゴールド以上の認定を受けた楽曲)

自作曲に縛られることなく多彩な歌声で連続ヒット、1stアルバム『狂言』がCD25万枚突破

さらに、その間も1~2か月おきに配信シングルをリリースし、インパクト絶大な「うっせえわ」以外のヒットを量産するような体制を整えた。CD発売のないまま、ヒットを連発するのはその前年の男女ユニットのYOASOBI、またAdoと同時期に「ドライフラワー」が注目されていた男性シンガーソングライターの優里と同じ昨今のヒット戦略と言えよう。

ただし、Adoの場合は、自作曲に縛られることなく、様々なボカロPからの楽曲提供を受け、それぞれの楽曲にふさわしい緩急の効いた歌声で披露し、その結果より多彩なヒット曲が生まれた。(日本レコード協会のゴールド認定だけでも5曲)その歌声は、椎名林檎や中森明菜、さらにマニアックには戸川純や吉田美奈子などAdoが生まれる以前のうるさ型のリスナーにも訴求できるほどのインパクトがあり、楽曲の良さ、メディア戦略の良さが語られがちだが、大元となるAdoの歌声の魅力あってのことだろう。

そうして、2022年1月26日、8作もの配信シングルを収録したアルバム『狂言』が満を持して発売され、CDの初動14.2万枚でオリコン週間ランキング1位、8月末には累計25万枚を突破、またオリコン合算アルバム(CD+ダウンロード+ストリーミング)では累計38万ポイントとなり、2022年の年間TOP10クラスのヒットとなっている。さらに、2022年4月4日にはファーストライブを念願だったZepp Diver Cityにて開催し、その歌声がSNS上でも大きな話題となった。

Adoアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』通常盤ジャケット画像
( ©尾⽥栄⼀郎/2022「ワンピース」製作委員会)

 

アニメ『ONE PIECE FILM RED』では、より幅広い楽曲提供で才能を開花

さらに、快進撃は続き、6月からは劇場版アニメ『ONE PIECE FILM RED』の主題歌「新時代」、挿入歌「私は最強」「逆光」を2週間おきに立て続けにリリース。この3作は、それぞれ中田ヤスタカ、Mrs.GREEN APPLEの大森元貴、Vaundyと、ロック&ポップスの現場でも活躍する三者が手がけることで、J-POPのヒットシーンに君臨すべくより大胆かつ洗練された楽曲が揃い、映画公開週にはビルボード総合ソングチャートのTOP3を独占するほどとなった。そして、同じ週には劇中の7曲を収録したアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』も発売。上記の3曲以外にも、FAKE TYPE.、澤野弘之、折坂悠太、秦基博といった実力派が手がけた4曲を収録し、より心の葛藤を描いた激しい歌声や、より成熟した懐の深い歌声も披露されており(特に、バラードの「世界のつづき」と「風のゆくえ」は、聞けば聞くほどに心に沁みてくる)、映画の人気も相まって幅広いリスナーに浸透しそうだ。ちなみに、こちらも発売2週間で、CD売上が13.7万枚、合算で16.0万ポイントと、こちらも確実に伸びている。

Adoタレントパワースコア(2022年5月) 全体、全男性、全女性

TVの顔出しのないまま、TVスター級のタレントパワーに。特に女性では幅広い人気に

そんなAdoのタレントパワーを見てみると、全体で17.9ポイントと、デビュー1年半としてはかなりの高さ。特に、タレントパワーの場合、タレントの顔(あるいはそのイメージ)と名前が一致しないと、なかなか数字が伸びずにデビュー1年ほどの若手では大抵が10ポイント前後なるのだが、彼女の場合はそれをゆうに超えている。特に、全男性では15.3ポイントに対し、女性では20.6ポイントといわゆる人気者の基準である20ポイントもクリアしている。これを年代別で見ると、男性は10代が突出しているのに対し、女性ではドラマ『ドクターX』や『ドクターホワイト』の各主題歌が好調だったこともあり40代まで高ポイントとなっている。今回の『ONE PIECE』効果で、男性も含めより幅広いファンに広がることも確実だろう。

2022年末には初の全国ライブツアーも予定されているAdo。筆者個人としては、あのパワフルな歌声を紅白歌合戦など大舞台で生で聴いてみたい。

 

 

 

 

 

 

著者プロフィール

うすい・たかし。1968年京都府出身。特技は1975年以降のバースデーソング占い(笑)。地元大学大学院理学研究科修了、専攻は理論化学(だったはず)。総合化学会社、音楽系広告代理店での数値解析やマーケティング実務を経て、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、音楽分析や配信サイトの選曲、コンピレーションや復刻CDの企画のほか、日経エンタテインメント!やfumufumu news、共同通信加盟社の各地方の新聞等で愛と情熱に満ちたコラムを執筆。Twitterは @t2umusic(よかったらフォローして下さい♪)

コミュニティFM「渋谷のラジオ」にて水曜12時から『渋谷のザ・ベストテン』というベテラン・アーティスト中心の音楽番組を生放送でお送りしています。専用アプリから全国で生放送が聴けますし、過去のトーク部分は番組の(『渋谷のザ・ベストテン』note)  から聴くことができます。よろしければ♪また、このうちプレイリスト #おとラボの説明をSpotify ポッドキャストにて実施中。こちらも好評(?)です! 

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