『臼井孝のヒットは複眼で探せ!タレントパワーランキング編』(94)いきものがかり
話題のアーティストのセールス状況や新作の内容、タレントパワーランキングを見ながら、そのヒット傾向を読み解く『臼井孝のヒットは複眼で探せ!タレントパワーランキング編』。今回は、昨年結成20周年を迎えた いきものがかり に注目。
<2021年の9thアルバム『WHO?』は、とっても聴きやすい>
いきものがかりは、オリジナル曲を制作する3ピースバンドでありながら、“バンド”というとやや違和感があるような…、むしろ楽曲は歌って踊るポップスグループの方が近いような…、とそれだけジャンルにとらわれない良質なJ-POPを送り続けるユニットと言えよう。
そんな彼らが、シングル「SAKURA」からまる15年となる2021年3月、通算9作目となるアルバム『WHO?』をリリースした。本作は、全9曲というCD部分のコンパクトさもあって、だからこそ気軽に聴ける作品だと感じた。2010年の朝の連続テレビ小説主題歌となった国民的ヒットの「ありがとう」や、2012年NHKロンドン五輪テーマソングとなった壮大なバラードの「風が吹いている」を抜きに聴いたとしたら、「このバンド、今後売れるんじゃない!?」って素直に思えるようなある意味原点回帰的な作品だ。全9曲中、アニメ『BORUTO』、ドラマ『未解決の女』、映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』『100日間生きたワニ』に、SNSで話題となった『100日後に死ぬワニ』、ABC-MARTのCMと6曲ものタイアップもあり様々な入り口があることからも聴きやすい作品と言えるだろう。
<全体にバラード多めでもバラエティーに富み、メッセージがちゃんと伝わる作品>
具体的に見ていくと、“君”との想い出を抱いて前を進んでいく明るくもちょっぴり切ない「TSUZUKU」で始まり、LIVEで盛り上がりそうなアゲアゲチューンの「BAKU」へと続く。管楽器やエレキギターがうねりまくるのも、新鮮で心地よい。そこから、悲しみも無駄ではないというマイナー調の「きらきらひかる」、男女ボーカルのハモリも功を奏した優しいメッセージソングの「からくり」、山下作詞・作曲で自分のこれまでを振り返るフォルクローレ風の「わたしが蜉蝣」とバラードが3曲続く。それでも、全く冗長な感じがなく、それぞれの言葉が伝わってくるのは、歌詞やメロディーの骨幹がしっかりしていること(全9曲中6曲が水野の作詞・作曲)、そして吉岡の歌詞カードを見なくても言葉が届く明朗なボーカルあってのことだろう。
そして、6曲目はそんな明るさいっぱいの吉岡作詞・作曲のハッピーソング「チキンソング」で、以降、言葉もアレンジもファンキーながら “いきもの流”の穏やかな感じを残す「ええじゃないか」、そして超ストレートなラブソング「もう一度その先へ」、出逢いと別れの春を描いた「生きる」で幕を閉じる。1曲目と9曲目がどこか繋がっているような雰囲気があるので、一つの短編映画を観たような温かい気持ちになることだろう。付属DVDの方は、結成当時からの懐かしい映像を交えた20年間を振り返ったロング・インタビュー(吉岡のはじけ方がTV以上に面白い)や、各Music Videoとその背景の説明、さらに約50分にわたってのオンラインLIVEの映像と、こちらも盛りだくさん。全9曲のCDのシンプルさで満足いかないコアなファン向けに、かなり深掘りした構成となっている。
<30代ユニットながら、10代にも60代にも愛される唯一無二の存在>
そんな、いきものがかりのタレントパワーを見てみると、男性27ポイントに対し女性30ポイントと、男女でさほど差がない。これは女性ボーカルのユニットとしては、かなり珍しい(一般的には、ボーカルの女性目あての男性ファンが多いか、女性ボーカルから発せられるメッセージに共感する女性ファンが多いかに大きく偏る傾向にある)。さらに注目すべきは、タレントパワーについて、年代別で10代後半を最大ピークとしつつ、50代や60代までほぼ中程度の人気を保っていることだ。彼らは全員30代後半で、その実年齢に比べ20歳も下の世代から支持されているのも珍しいし、なおかつ20歳も上の世代から支持されているのももっと珍しい。ここ数年メガヒットはなくとも、2世代、3世代と幅広い年代から愛されているという、実はとてもユニークな存在感を維持しているのだ。
2021年4月からは『いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!』と題したツアーが始まった。新型コロナウイルスの感染拡大予防策を徹底しながらの実施で、どうにか無事に成功してほしいと願うばかりだ。