女性タレント

伊藤沙莉インタビュー(前篇)初めて思った「私がやるべき役」

2020年は『ステップ』『劇場』『十二単衣を着た悪魔』『ホテルローヤル』など9本の映画に出演した伊藤沙莉。さらに『いいね!光源氏くん』(NHK)、『ペンション・恋は桃色』(フジテレビ)ほかのドラマに出演し、テレビアニメ『映像研には手を出すな!』(NHK)や映画『小さなバイキング ビッケ』などでは主人公の声を担当して脚光を集めた。そして11月13日公開の主演映画『タイトル、拒絶』で演じたのは、派遣風俗店のスタッフとして働く女性・カノウ役。19年の東京国際映画祭で最も輝いた若手俳優に贈られる「ジェムストーン賞」を受賞した作品だ。

初めて思った「これは私がやるべき役」

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——派遣風俗店を舞台にしたセンセーショナルな題材の作品です。オファーが来た時はどう思いましたか?

まず脚本がとっても面白くて、すごく好きな作品だなと思いました。そして「カノウをやって欲しい」と言われた時に、その意味が分かりましたし、カノウ役でオファーいただけたことがうれしかったので、悩んだり考えたりすることはなかったです。すぐ「やりたいです」という感じでした。

——カノウという役について、どう思われましたか。

共感する部分がたくさんありました。カノウの「私はタヌキ。みんな可愛いらしいウサギにばかり夢中になって、タヌキになんて目もくれない」というようなセリフがあるんです。自分自身もどちらかというとタヌキだと思って生きてきたので、私がやった方がいいんじゃないかなって思ったんです。自分に自信のあるタイプではないですし、「私が、私が!」というのはあまりない方ですが、これだけはあったんです。「これは私がやるべきだ」と、初めて思った役でした。

——現場ではどんな意識で演じていきましたか。

出てくる人間がみんな濃いなか、カノウは普通の女の子。自分が経験したことのある感情や感覚も多かったので、あえて何もしていかないようにしました。それに、基本的には受け身の役なので、周りが自由にやれるのが一番。この作品に関しては、そういう意識で演じました。

——スウェットのようなダボッとした服を着ていることも多く、リラックスしてその場に存在しているような雰囲気が印象的でした。

そうですね。あまりこういう表現は好きではないけれど、女としての自分に自信がなくて、あえて女らしくない格好をしていたんだろうなと思います。

——服は、衣装さんが?

そうです。衣装合わせでも、「うわ、カノウだなあ」と思いましたし、メイクも美術も含めて、全体で世界観を作ってくれてるなあと感じました。

——今回、苦労したことや大変だったことは?

うーん……ちょっと関係ないかもしれないですが、カノウが泣く大事なシーンを撮る日に、ヨコハマ映画祭に出席したんです(19年2月に助演女優賞受賞)。「この後、傷付いて泣かなきゃいけないんだ、私は!」と思っていたら、映画祭に全然集中できなくて(笑)。頭真っ白のまま舞台挨拶を終えて、そのまま撮影場所の木更津(千葉)に運ばれていったという(笑)。

——撮影には集中できました?

集中できました。何回も傷付きたくないので。一発で撮影を終わらせたかったので(笑)。

——完成した本作で、東京国際映画祭のジェムストーン賞を受賞。どう思われましたか?

うれしかったですね。いろんなターニングポイントがあったのですが、カノウは、自分の第一章の終わりのような感じがしてるんです。私もタヌキなりに生き方を見つけたような気がして。いいタイミングで出会えたカノウ役で賞をいただけたことが、ありがたかったですし、すごく感慨深かったです。

見てもらえない「タヌキ期」からの脱却

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——伊藤さんの「タヌキ時代」は、どんな感じだったんですか。

「タヌキにはみんな目もくれない」というカノウのセリフ通りで、視界に入れてもらえなくて、目が合わない人がほとんどだったと思います。もちろん私は無名でしたし、振り向かせられるようなルックスを持っているわけではないので、2人並んでいたら、世に出ているルックスのいい子を見るのは分かるんですよね。でもそういう状態が続くと、期待しなくなっていくんです、どんどん。

——自分に?

人に。それで「視界に入れてもらうのも図々しいか」と思うくらいにひねくれていたのが、絶頂タヌキ期だと思います。

——それは、何年前くらいですか?

うーん、3年前くらいですかね。

——わりと最近ですね。

見てくれなかった人が見てくれるようになってきたのは、『ひよっこ』(17年)からですね。「朝ドラって力、強っ!」と思いました。それと同時期に『獣道』(17年)という主演映画が公開されて。朝ドラでお茶の間の人、『獣道』でぶっ飛んだ映画が好きな人、どちらもなんとなく知っていただけたタイミングだったのかなと。だから私にとって、3年前の23歳が、けっこうな転機だったんです。(後篇に続く)

伊藤沙莉(いとう・さいり)


誕生日 1994年5月4日
出身地 千葉県
所属事務所 アルファエージェンシー
公式サイト http://www.alpha-agency.com/artist/post-2.html
公式ツイッター https://twitter.com/SaiRi_iTo
公式インスタグラム https://www.instagram.com/itosairi/
公式ブログ https://lineblog.me/itosairi/

 

映画『タイトル、拒絶』


2020年11月13日から全国公開
監督・脚本:山田佳奈
出演:伊藤沙莉、恒松祐里、佐津川愛美、片岡礼子、でんでん、モトーラ世理奈、池田大、田中俊介、般若
ヘアメイク AIKO
スタイリスト 吉田あかね

配給:アークエンタテインメント
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