2003年、黒木和雄監督作『美しい夏キリシマ』のオーディションに合格して主演デビューした柄本佑。以降、様々な役柄を演じてバイプレイヤーのイメージも強いが、近年は『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18 年)、『きみ の鳥はうたえる』(18 年)などでキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、毎日映画コンクール男優主演賞、日本批評家大賞主演男優賞ほかを受賞。
19年の『火口のふたり』でも主演俳優として存在感を増している。
また、昨年の主演ドラマ『心の傷を癒すということ』では第46回放送文化基金賞の演技賞を受賞するなど高い評価も得ている。インタビュー後篇では、そんな柄本のタレントパワーやイメージワードを本人と紐解いていく。
子どもが生まれて、アプローチに変化
——去年あたりから、佑さんのパブリックイメージが変わってきた印象があります。まず2月公開の映画『Red』で、ヒロイン(夏帆)とその愛する男(妻夫木聡)の間に割って入ろうとする小鷹淳役で、色気とカッコ良さが際だっていました。そして1月期のドラマ『知らなくていいコト』では「柄本佑はイケメン?」という論争がネット上で巻き起こったりもしましたね。
ああ〜、ありがとうございます。でも、どうしろって言うんだ(笑)。
——タレントパワーランキングの調査によると、『知らなくていいコト』や『心の傷を癒すということ』の放送後の5月度に、特に知名度と誘引率(関心度)がグッと上がっています。
——昨年の前半で世間の見方が変わってきたなと感じたりは?
……うん、別に、ない(笑)。去年の5月なんて、コロナ禍の真っただ中でしたから、ずっと家にいましたしね。
——『知らなくていいコト』の尾高由一郎役は、どのように臨んだのですか。
脚本があって、メイクさん、衣装さんがいて、撮影部がいて照明部がいて、それを全体として見る監督がいてっていう、ある種の総合力で尾高という役は作られてるんです。実は撮影初日に、みなさんにお願いしたんですよ。
「極力がんばるけど、この見た目は変わらない。尾高というフィクションをみんなで作りましょう」って。そうやって具体的に3Dのビジュアルとして役を作ることに挑戦したら、みなさんに話題にしていただいて。こういったやり方も1個あるなと思いましたし、チーム全体を認めてもらった気がして、うれしかったんです。
——『Red』の小鷹淳役はどのように?
恋のライバルは、あの妻夫木聡。これは正統で行っても勝てないぞと思って(笑)、監督に『宮城リョータにしたいんです』って話したんです。そうしたら『ミヤギさんって、いつ頃の役者さんですか?』って。
「いや違います、『SLAM DUNK』のキャラクターです」と(笑)。それでアニメの映像を見てもらって、髪の毛をぐるぐるに。何しろ相手は、妻夫木聡ですから(笑)。
——なるほど。今のお話を要約すると、「人は見た目も大事」ということ?
あ、そうそう(笑)。それまでは自分の内側の核みたいなものを大事にしていたんですけど、子どもができたくらいからかなあ。「そんなことしてても、しょうがないな」という気持ちになり(笑)。
そういったなかの1つが『Red』であり、『知らなくていいコト』だったんです。
「個性的な」「存在感がある」と言われたくない
——タレントパワーランキングでは、「イメージワード調査」を行っています。佑さんのイメージ1位は「個性的な」、2位は「演技力がある」、3位が「存在感がある」でした。
その3つについては、一番言われたくないことですね。バレちゃってますからね、何かね。
——バレちゃってる?
役者がいるって、バレちゃってるというか。本来であれば、「どこにでもいるような人だな」みたいなイメージが一番うれしいわけですよ。99人の中に1人だけ役者が混ざっていてもバレないっていうのがベスト。
社長シリーズ(森繁久弥主演の喜劇映画シリーズ)で加東大介(俳優)が出てきたときに、「あれ?役者じゃない普通の人が映っちゃた!」みたいな感覚があるじゃないですか(笑)。あそこまで行ったら、ようやっと個性的とか存在感とかって言っていいんじゃないですかね。
加東大介、森繁(久弥)、小林圭樹、三木のり平らへんまで行って、ようやく役者と言っていいんじゃないかなっていう気がします。
——市井の人をちゃんと演じられる人になりたいという気持ちがある?
まあ、そうですね。「いかにバレずにいるか」みたいな方がやりがいを感じるし、楽しいです。
僕は落語家の柳家小三治師匠を心の師としてるんですけど、小三治師匠が落語について、こう言ってるんですよ。
「柳家小三治というものがその場からいなくなって、おはなしだけが座布団の上にあることがベストだ」と。「柳家小三治すら邪魔だ」って言うんですね。僕にとっては、それが最終目標みたいなところがありますね。
あと小三治さんは「芸なんて、できる限りのことしかできない。あとは人です」とおっしゃるんです。みんな、目の前で行われてることは、そこまで見てない。その人の後ろにある何かを見てるんじゃないかなって……俺、今、何の話をしてるんだっけ(笑)。
——(笑)。ちなみに「逆引きイメージ」という機能で、「個性的」で「演技力がある」のランキングを調べると、1位は柄本時生さんでした。
おおっ。あいつ、まゆ毛が個性的なんだよなあ(笑)。
——1月に放送されたWOWOWの『アクターズ・ショート・フィルム』で短編を監督されていましたが、今後は監督業も?
そうですねぇ。もともと、監督志望でこの業界に入ってるし、その夢はあります。いつかは絶対、長編を撮りたいですね。
柄本佑(えもと・たすく)
誕生日 1986年12月16日
出身地 東京都
所属事務所 アルファエージェンシー
公式サイト http://www.alpha-agency.com/artist/emoto.html
公式ツイッター https://twitter.com/tasakueats
映画『痛くない死に方』
2021年2月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
出演: 柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二
監督・脚本:高橋伴明 原作・医療監修:長尾和宏
制作:G・カンパニー 配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「痛くない死に方」製作委員会
公式サイト:http://itakunaishinikata.com/
(c)「痛くない死に方」製作委員会