緑茶、麦茶などのお茶飲料は、近年は健康志向や猛暑対策などからニーズがさらに高まり、各社が人気タレントをCMに起用して、しのぎを削っています。
お茶のCMには、どのようなタイプのタレントが起用される傾向があるのでしょうか。ここでは日本最大級規模のタレント調査「タレントパワーランキング」のデータをもとに、お茶のCMに出演している主な男女タレントの世間でのイメージや年代別タレントパワーを分析します。
お茶のCMの傾向
お茶飲料は、清涼飲料水全体における2024年品目別生産量では23.9%(2025年・全国清涼飲料連合会調べ)で、ミネラルウォーター、コーヒーなどを抑えてトップのシェアを占めています。購買層のコアは40代~60代の主に男性とされてきましたが、最近は20~30代の女性をターゲットに展開する商品が増えて、若手のタレントもCMに起用されています。
アクティブなイメージがある炭酸飲料やエナジードリンクなどと比べると、お茶は鎮静効果を求める消費者も多く、CMの内容も落ち着いた雰囲気の中で美しい映像が繰り広げられています。日本茶の純和風なイメージから、京都や茶畑、茶室などで撮影されたCM、歌舞伎などの日本文化をテーマにしたCMも目立っています。
CMに起用されるタレントも、そうしたターゲットとなる年齢層で人気・好感度が高く、CMの内容にハマる魅力を持つ存在がキャスティングされています。
お茶のCMに出演しているタレントの紹介方法
今回は、お茶のCMに出演しているタレントについて、男女各5名をピックアップして、『株式会社アーキテクト』が実施しているタレントパワーランキングの調査データとともに紹介します。
タレントパワーランキングの調査方法
株式会社アーキテクトでは年に4回(2月/5月/8月/11月)、毎回男女10~69歳の合計4400人に回答を依頼しています。調査しているのは「認知度」(そのタレントを知っているかどうかの数値)、「誘引率」(「知っている」と答えた人に対して、そのタレントがドラマやCMに出ていて観たいと思うかどうかの数値)で、「認知度」と「誘引率」を掛け合わせて、そのタレントが、どれだけの人たちを惹きつけているか、「人気度」を示す弊社独自の指標「パワースコア」を算出します。
また、イメージデータ調査では、タレントのジャンルごとに決められているイメージワードのうち、そのタレントがどのようなイメージを持たれているかを年に1回調査しています。
お茶のCMに出演している男性タレント
伊藤園「お~いお茶」CM出演
大谷翔平
プロ野球選手。1994年7月5日生まれ、岩手県出身の31歳。2013年から2017年までNPB・北海道日本ハムファイターズに在籍して、投手と打者の二刀流で活躍。2018年からMLBに移籍。2025年もロサンゼルス・ドジャースの一員として55本塁打を放ち、ワールドシリーズ制覇に貢献しました。
連日ニュースやワイドショーでも取りあげられていることから幅広い年代でパワースコアが高く、8月度調査で総合2位となっています(1位はサンドウィッチマン)。野球選手は男性の回答者のほうが認知度やパワースコアが高くなる傾向がありますが、大谷の場合はパワースコアが男女ほぼ同じで、認知度は男性79.5%に対して女性93.3%で女性のほうが高くなっています。年代別に見ると特にパワースコアが高いのは40~60代で、ほかのお茶飲料と比べて40代以上の支持が高くなっている「お~いお茶」のコアターゲット層に合致した人気者の起用となっています。
伊藤園「健康ミネラルむぎ茶」CM出演
笑福亭鶴瓶
落語家、タレント。1951年12月23日生まれ、大阪府出身の73歳。1972年、「六代目笑福亭松鶴」に入門。『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK)、『A-Studio+』(TBS系)などの番組MCをつとめて、幅広い年代でおなじみになっています。
NHKの人気番組で活躍してきたこともあって中高年での知名度が抜群に高く、特に40代後半、50代前半・後半女性の認知度は100%です。年代別パワースコアでは、40代後半女性の39.3ポイントがトップですが、20代後半女性でもこれに匹敵する38.0ポイントの高スコアをはじき出しています。健康志向から市場を拡大している麦茶はお茶飲料の中では女性の支持が高く、幅広い年代で女性人気が高い笑福亭鶴瓶が起用された要因になっていると見られます。
キリンビバレッジ「生茶」CM出演
鈴木亮平
俳優。1983年3月29日生まれ、兵庫県出身の42歳。2006年に俳優デビュー。2014年放送のNHK連続テレビ小説『花子とアン』に吉高由里子が演じたヒロインの夫役で出演して注目を集め、2018年にはNHK大河ドラマ『西郷どん』で主演。2026年1月クールのTBS系日曜劇場『リブート』で主演します。
8月度パワースコア・男性俳優部門(バラエティ系の男性タレントは除く)で阿部寛、大泉洋に次ぐ3位。年代別では20代後半女性と50代前半女性のパワースコアが高く、支持層の山が2つある俳優です。1つの年代に支持が偏っていないことが、幅広いターゲットにアピールを目指す人気商品のCMへの起用につながっています。イメージワード調査では「演技力がある」「力強い」「男前な」「誠実な」のスコアが高く、好感度の高さが、ナチュラルなイメージが強いお茶CMに起用された要因になっていると考えられます。
日本コカ・コーラ「やかんの麦茶」CM出演
高橋文哉
俳優。2001年3月12日生まれ、埼玉県出身の24歳。2019年に『仮面ライダーゼロワン』(テレ朝系)で主演。2023年にドラマ『フェルマーの料理』(TBS系)でGP帯連ドラ初主演したほか、2025年前期NHK連続テレビ小説『あんぱん』に北村匠海が演じた柳井嵩の戦友役で出演して注目を集めました。
2025年4月からスタートした「やかんの麦茶」の新CMはアニメ『クレヨンしんちゃん』の実写化企画で、高橋文哉は「25歳になった野原しんのすけ」役を演じています。10代後半から20代後半でパワースコアが高い高橋が、商品のターゲットである20~40代に認知が高い『クレヨンしんちゃん』とコラボすることで、効果的なアピールを狙っています。イメージワード調査で「さわやかな」「優しい」の数値が高いことも、麦茶のCMに起用された要因となったと考えられます。
アイリスオーヤマ「アイリスのお茶 綠」CM出演
吉沢亮
俳優。1994年2月1日生まれ、東京都出身の31歳。2010年に俳優デビュー。2021年にNHK大河ドラマ『青天を衝け』で主演。2025年6月に公開された主演映画『国宝』は興行収入170億円を突破(2025年11月10日時点)して、実写日本映画では歴代2位。現在放送中のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』にも出演中です。
吉沢亮は2020年からアイリスオーヤマのCMに出演して、2025年6月に新発売された本商品のCMにも登場。イメージワード調査では「演技力がある」「男前な」「クールな感じ」の数値が高く、その演技力の高さを買われ、アイリスオーヤマのこれまでのCMではコミカルな世界観の中でクールなCMプランナー「要正直」役を演じてきました。「アイリスのお茶 綠」のCMでは、茶室を舞台に「伝説の茶人・お綠さん」を演じ、きめ細やかな所作を見せています。イメージワード調査でも「落ち着いた」は4番目に高いワード(22.3%)で、今回はそのイメージを活かしたCMと考えられます。
お茶のCMに出演している女性タレント
アサヒ飲料「十六茶」CM出演
新垣結衣
俳優。1988年6月11日生まれ、沖縄県出身の37歳。2006年に江崎グリコ「ポッキー」のCMでブレイク。2016年には主演ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)が話題を集めました。最近では2024年に映画『違国日記』で主演。
「十六茶」のCMには2009年から出演しています。2025年夏に放送された“16チャージ!野球場”篇は夏の水分補給としてのお茶のニーズを意識して、野球観戦しながら新垣がゴクゴクとペットボトルの十六茶を飲む姿が描かれました。年代別のパワースコアは20代前半・後半に加えて40代後半、50代後半などでも高く、幅広い年代での高い支持が起用につながっています。イメージワード調査では「ビジュアルが良い」「かわいい」に加えて「親しみやすい」「清潔感がある」などのスコアも高く、そういったイメージがお茶CM起用の要因となったのではないでしょうか。
日本コカ・コーラ「綾鷹」CM出演
宇多田ヒカル
シンガーソングライター。1983年1月19日生まれ、米国ニューヨーク出身の42歳。1998年にメジャーデビューして、デビューシングル『Automatic』がミリオンセラーとなる大ヒット。2004年に全米デビュー。2023年には映画『キングダム 運命の炎』に主題歌「Gold ~また逢う日まで~」を書き下ろして注目を集めました。
パワースコアは、20代後半から40代後半まで幅広い年代で高くなっています。特にスコアが高いのは、30代後半から40代後半にかけての女性ですが、20代後半・30代前半も高いスコアを示しています。2024年からアンバサダーに就任してCMに出演するとともにCMソングも担当している「綾鷹」は、同年のフルリニューアルによって商品のターゲットをそれまでの40~50代から20~30代に変更しました。サブスクサービスの普及で若い層においても宇多田ヒカルの楽曲が支持されていることが、CM起用の要因になったのではないでしょうか。
日本コカ・コーラ「綾鷹」CM出演
上白石萌歌
俳優。2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身の25歳。2011年に「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリに選ばれ、芸能界入り。アニメ映画『未来のミライ』、ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)、『教場』『パリピ孔明』(フジ系)などで活躍。2025年12月12日公開予定の映画『ロマンティック・キラー』で高橋恭平、木村柾哉、中島颯太とともに主演します。
お茶とおにぎりのペアリングを提案する、若い層をターゲットにしたキャンペーン「おにぎり食堂 綾鷹屋」のCMに2025年3月から出演して、店主役を演じています。10代から60代まで幅広い年代でパワースコアが高く、イメージワード調査では「親しみやすい」が最もスコアが高いワードとなっています。支持層の広さと親しみやすいイメージが、CM起用につながったと考えられます。
キリンビバレッジ「生茶」CM出演
出口夏希
俳優、モデル。2001年10月4日生まれの24歳。2018年、「ミスセブンティーン」に選出。2023年には『舞妓さんちのまかないさん』(Netflix)で連ドラ初主演(森七菜とW主演)。2025年1月にはJR東日本「JR SKISKI」のCMに起用されました。みずほ銀行、フジクラ、明治「メルティーキッス」などのCMにも出演中です。
CM起用が増えている次世代女優で、「もっと見たい」という関心の高さを示す誘引率は10代から30代前半まで、いずれも80%を上回っています。これまで松嶋菜々子、綾瀬はるか、北川景子、満島ひかりらの女優が出演してきたキリン「生茶」のCMに、2024年から新規起用されました。『Seventeen』『non-no』専属モデルとして活躍してきたことから10代後半、20代前半の女性の認知度が高く、イメージワードでは、「ビジュアルが良い」「かわいい」に次いで「清潔感がある」「親しみやすい」のスコアが高くなっています。お茶が持つ清涼感を的確に表現できて、若年層に訴求する旬の若手女優としての起用と考えられます。
サントリー食品「伊右衛門 濃い味」CM出演
奈緒
俳優。1995年2月10日生まれ、福岡県出身の30歳。福岡でタレントとして活動後、上京。2018年にNHK連続テレビ小説『半分、青い。』に永野芽郁が演じたヒロインの親友役で出演して注目を集め、2022年に『ファーストペンギン!』(日テレ系)で民放GP帯連ドラ初主演。最近では2025年夏に放送されたドラマ『塀の中の美容室』(WOWOW)で主演しました。
「伊右衛門」のCMには2025年3月から出演しています。9月から放送された“心に、京都を。紅葉。”篇は、春にオンエアされた“心に、京都を。春。”篇の続編で、物語の舞台は前回同様に、京都の老舗茶舗「福寿園」と共同開発した「伊右衛門」にとって原点の場所である京都。京都で再会した奈緒が演じる陶芸家と青木柚が演じている大学時代の後輩が、紅葉で色づいた京都の街を並んで歩くというストーリー。イメージワード調査では「演技力がある」のスコアが最も高く、演技力の高さを買われてドラマ仕立てのCMになっていると言えます。また、「親しみやすい」「健康的な」「落ち着いた」の数値も高く、心のやすらぎや癒しをテーマにした「伊右衛門」CMへの起用要因になったと思われます。
まとめ
お茶のCMには、40代以上に支持されているタレント、または20~30代に支持されているタレントが起用される傾向があります。これは、従来のお茶飲料のコアターゲットだった40代以上に加えて、各社が市場拡大を目指している20~30代にアピールできる存在を求めているからです。
また、健康志向で売り上げを伸ばしている身近な飲料であり、CMではさわやかで清潔なイメージを展開することが多いため、イメージワード調査で「親しみやすい」「さわやかな」「清潔感がある」「健康的な」のスコアが高いタレントが起用されるケースが目立っています。
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文/高倉文紀
評論家。『日経エンタテインメント!』『日刊ゲンダイ』などで男女俳優・アイドル+の取材やタレント市場のデータ分析を展開するほか、テレビ番組や雑誌・Webニュースにコメントを提供。

















